奥の細道を求めて

仏を求める旅

六代目 三遊亭圓生の『死神』



この落語は子供の頃、何回か聴いたことがあってとても好きだった。楽しくて、しかも怖い。それを最近 YouTube にアップされている貴重なテレビ画像で見ることができた。まさに話芸の傑作だ。もともとこの噺は明治期に活躍した圓朝という噺家がグリム童話を元ネタにして作ったものらしい。その噺は、


江戸時代、金に困った貧乏男が薄野原をトボトボ歩いていると、目の前に大きな木があった。男は思う「こんな苦労をするくらいなら、いっそこの木にぶら下がって死んじまおう」と。そこに死神が現れる。その男とこの死神には何か前世からの因縁があったらしい。「手前ぇと俺とはまんざら知らねぇ仲じゃねぇ。助けてやろうじゃねぇか」と言い、死神の秘法を授けてくれた。それは人の生死の見極めができて、寿命があるならどんな病人でも生き返らせることができるという秘法だ。死神は念を押す。「これは決してむやみに使っちゃいけねぇよ。人の寿命は決まってんだからな」と。男はその日から医者になり、人の生死を言い当てて大儲けする。ところが人の欲とは限りないもので、とんでもない大金が貰えると言うので大商人の寿命の無い病人を、死神との約束を破って助けてしまった。大金を手にしてウキウキしながら帰る帰り道、怒った死神が現れる。「オイ待てよ。こっちぃ来な」と言って男を地下の世界に連れて行く。そこには何万本ものロウソクが灯っていた。「良く見ねぇ、こりゃぜんぶ人の命だ。手前ぇのロウソクはこれだよ」と言われて見ると、それはもうロウが溶け、灯心だけが小さく、今にも消えそうになっていた。灯心が倒れてしまったら、もう消えてしまうだろう。男は慌てて「もう金なんて要りやせん。すべて差し上げますので、どうか命だけはお助けください」と死神の足に泣いて縋り付く。「手前ぇがな、あんなマネするから手前ぇの寿命と病人の寿命が入れ替わっちまったんだ。諦めな」「そこをどうか、そこをどうかお願い致します」と頭を何度も地面に叩きつけて頼むので「そこまで言うんなら、じゃここに燃えさしのロウソクがあるから、ソッチの小さな火をコッチの灯心に移し替えてみな。上手く出来たら手前ぇの寿命は延びるぜ」男は嬉んでロウソクを受け取るけど、手が震えてしまってなかなか火を移し替えられない。「ヒッ、ヒヒッ、ヒッ。



そんなに震えてちゃ、火は移せねぇぜ。ほら、消えるよ。ほら消える」死神がそう言ったとたんに男はその場にばったり倒れてしまった。




この噺がホントに怖いのは、死神が「ヒッ、ヒヒッ、ヒッ」とイヤらしく笑う場面だ。死神の本性が出る。死神の仕事は人を死に連れて行くことなのだから、別の死神の獲物である商人を死なせるよりは、この男に死んでもらった方が具合が良い。人の生への執着の強さを良く心得ている死神は、そんなことができるはずはない、と知っていて楽しんだのだ。

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