2022年7月14日、あるいはゴヤの恐怖
世界がほどけていく
ライブラリーの前期の授業の終了式が終わり
階段を降りようとしたところで
歩けなくなってしまった
頭を垂れて坐り込んでいると
横を通り過ぎるクラスメイト達が心配そうに声を掛けてくれる
手で大丈夫だと告げるけどまったく大丈夫じゃない
視界が白けて世界の重みが失われ秩序のない混沌に呑み込まれてしまった
大切な記憶を保持するためにパニックの中でからだを小さくする
でもそこを白い世界が侵食し私を犯して行く
世界は乱雑な線の集合でしかなくなってしまった
撚り糸島だ
緊張で身が堅くなり動くことができない
そして今は隠れる赤い繭もない
真昼の太陽が真上から照りつけている
坐っていても重心が保てず
体が左右に傾いてしまう
すぐそこにある死の恐怖に捕らわれてじっとしてはいられない
立てるかどうか歩けるかどうかもわからないけど
横の手すりに掴まって体を立たせる
思わず手すりの横に重心が傾くと
手すりの下には暗くて白い深淵が大きく口を空けていた