奥の細道を求めて

仏を求める旅

日本の食べものへの恋しさ

私はちっともグルメではないので、食べ物にはこだわらないのだけど、でもやっぱり1年半も日本を離れていると日本の食いものが恋しくなる。

その中でも今の私が一番食いたいものは、立ち食いソバ屋のやまかけソバだ。よく仕事帰りの駅の立ち食いソバ屋で食っていた。噛み締めなければわからないホンノリとしたソバのそこはかとない香りの中に、少し下品な出汁が絡み、その上にトロッとした白い上品な山芋とアクセントの鶉の卵が乗っている。思い出しただけで、たまんないな。

次は納豆。私は神奈川の生まれなので納豆を食う。納豆は必ず冷やしておいて、そこに醤油・辛子・ネギを少し入れて(出汁は入れるとしてもホンのチョットでいい)、そしてできれば割り箸で、よく掻き混ぜる。この掻き混ぜる手間を5、6回で済ましてしまってはいけない。少なくても100回以上、手早く掻き混ぜる。ネギの代わりに、卵の黄身を入れるかどうかは意見が分かれるところだけど、卵は掻き混ぜ過ぎると臭み(卵の臭いと納豆の匂いは決定的に違う)が出てしまう気がするので、基本的に私は卵は入れない。その冷えた納豆を炊きたての熱いご飯にかけてかきこむ。これもまた堪らない。

3番目が焼き海苔で、できれば炭火でさっと炙って、パリッと香りを立たせて食いたい。これは主に酒のつまみだったので単品で食っていたのだけど、焼いた柔らかい餅に炙った海苔を巻いて食うのもいい。焼きたての熱い餅を醤油で少し冷やし、パリッと炙った海苔を巻いて食う。少し時間が経って海苔がフワッとなったのもまたいい。でも、冷たくしてしまってはいけない。食う時は食いたい気持ちの流れのままに、熱いものは熱い内に食わなくてはいけない。海苔を納豆ご飯に巻いて食べるのも美味いよね。


でもこう言うと、私は食べ物にはこだわらない、という私の前の言葉に矛盾してしまうかもしれない。今の私はダラムサラというインドのチベット文化圏に9ヶ月くらいいて、毎日インド料理とチベット料理を食べている。最初は抵抗があった。特にインドのカリーは日本のカレーとはまったく違っていて、独特の香辛料が強烈で最初は食えなかったし、米もインディカ米という長粒種なので日本のしっとりした丸いうるち米とは違う。



パサパサしていてとても食い難く、最初はちっとも美味いとは思えなかったのだけど、毎日食っているとこれが美味く思えてきてしまう。不思議なものだね。最初は受け付けられなかったインドの香辛料も、慣れてしまうと、それが少ない料理はかえって物足りなくなってしまった。すっかりインド/チベット料理に慣れてしまったのだろう。

そしてそれに何の不満もない今でも、やっぱり私は、子供の頃から食っていた日本の食いものが恋しくなる。

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