奥の細道を求めて

仏を求める旅

瞬きの闇の裡に棲むもの

「まかり通るぞ そこを退けい」

「わたくしはここを退くことはできませぬ」

「なぜかな われらが恐ろしくはないのかな」

「とても恐ろしく 目を上げることさえできませぬ」

「ならばなぜ退かぬ」

「わたくしはここで無くしものをいたしました それを見つけるまではここを退くことはできませぬ」

「なにを失くしたのかな」

「三つになるわたくしの娘でございます」

「して、その名は」

「うさぎ、と申します」

「そちの名は」

「狐、にございます」

「狐はうさぎを喰うもので 生むことは無かろう」

「はい わたくしにもわかりませぬ 雪の中 わたくしは凍え飢えておりました そこへ子うさぎが通りかかりましたので おもわず飛びつき 喰いました 雪が血で染まり わたくしはそれも貪り喰いました 輪廻の闇の中でいつかわたくしが生み育てた子でございます」

「左様か 我は主に使える身なれば 主に申し上げて進ぜよう」


わたくし供は闇のなかを行くもの

狭き道なれば退いてもらわねばならぬところですが

いたしかたない

狐殿とは知らぬ仲でもないゆえに

まわりみちをいたしましょう


「われらは一瞬の瞬きの闇の裡に棲みしもの わが主の名は うさぎ と申す」



※ これは鏡花の小説から着想を得てつくった、仏教の『刹那滅論』に対する私の取り留めのない考えのイメージの一つ。いつか、『刹那滅論』あるいは時間論、についての私のまとまった考えを述べてみたい。

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