コヒマという不思議な場所について
コヒマというところは一体何だったのだろう。なぜバスステーションに行けなかったのだろう。なぜあんなに多くのタクシーがいて威張っていたのだろう。なぜ皆んなホテルと言えばジャピューだったのだろう。
最初にバスがコヒマを通り過ぎてしまったのも、今思えばコヒマには止まりたくなかったのかもしれない。想像を膨らませると、いろいろな可能性が考えられる。
1、反政府組織の拠点がコヒマ以北にあり、コヒマはその前線で緩衝地帯だった。なのでインドの軍隊がウヨウヨといて、反政府組織のスパイも身を隠して潜り混んでいる。そのスパイがタクシーの運転手で、ホテル・ジャピューは軍資金の保管場所だった。バスステーションに行けなかったのは、部外者に立ち入ってもらいたくなかったからだ。
2、モンには山姥が住んでいる。旅人を取って喰っているので、コヒマの人びとは旅人をモンには近づけないようにしてくれている親切な人びとだった。
3、そもそも、コヒマはこの地上には存在しない場所だった。萩原朔太郎の『猫町』のように、私が偶々なにかの拍子に入り込んでしまったような場所だった。すべての現象は幻でしかない、という仏教の教えの通りに。
4、すべては私の勘違いでしかなかった。外部の人間があまり入って来ないような場所に、勝手の分からない外国人が入り込んでしまったので、周りの人たちはどう扱っていいのか解らなかった。住んでいる人には常識であり説明する必要のないようなことでも、部外者である私には何も解らない。なのでその間にガラスの隙間が出来てしまった。私はそのガラスを手探りするだけでウロウロし、現実を掴むことが出来ず、勝手に「閉じ込められている」と思い込んでしまった。
新月の山家に一人姥は住む
朽葉には骨の山なる厨かな
鬼も出ろ 釈迦も出でませ岩の窟
草の葉もどこへ行ったらいいのやら