奥の細道を求めて

仏を求める旅

私が初めてインドに来た時のこと #2

最初私はブッダガヤーから


歩いて仏跡を巡る旅を計画したのだけど、日本人にその計画を相談すると全員が「それはあまりに危険なので止めた方が良い」と言われた。でもインド人に話すと「何の問題もないよ。俺の親父は行商でその辺を毎日歩いていたんだから」と言う。どちらが正解なのかは実際に試してみないと判らない。でも両者共に言うのは「野宿だけは決してしてはいけない」ということだった。インドにはカーストがありカースト外の人たちもいて、彼らは人間として扱われていない。職に就けないから食うために子供は物乞いやゴミ漁りをし女は売春をする。でも男はそんな屈辱的なことはできないので、夜に生きて自分の獲物を探す。無防備な日本人が野宿なんてしたら身ぐるみ剥がされてしまうと皆んなが言っていた。間違いないだろう。インドがそのような社会であることを今では良く知っている。


実際歩くと、2日目で挫折してしまった。インド人は鉄道の駅があるところならどこにでも泊まれるところはあると話していたのだけど、実際に行ってみたら田舎の小さな駅にそんなところはない。宿泊施設があるような大きな町は50kmくらい離れているので、次の町には早足で10時間くらい歩かないとたどり着けない。私にそんな体力はないのでそこで挫折してしまった。ブッダガヤーに戻って、ならチャリを使えば行けるんじゃないかと考えた。安い中古のチャリを探したけどロクなものがない。なら新車を買っちゃおうとガヤーの町に行こうとしたら、友達になっていた文房具屋の兄ちゃんに声を掛けられた。「どこ行くの」「ガヤーまで行ってチャリを買うつもりなんだ」「なら俺が毎日使っているヤツを貸してやるよ」と言われた。願ったりもない。それはオレンジ色のチャリで構造がしっかりしていた。これなら使える。4ヵ月を1000ルピー(当時のレートて1500円)で借りた。後ろのタイヤがボロボロだったので交換しチューブは前後ともに新品にして、旅の始まりだ。


最初に目指すのは初転法輪のサールナートだ。歩くと一週間くらい掛かるけどチャリなら三日で着くだろうと思っていたのだけど、現在の私の体力を考慮に入れていなかった。初日に着く予定の町に着いた時にはもう真っ暗になってしまっていた。暗い道を一人でチャリをこぐのは不安でつらい。町に着いたけどホテルがどこにあるのかわからない。道行く人に聞いたのだけど、聞いた人が間違っていた。この辺りでは有名な金持ちのお坊ちゃまであるらしい。彼は「ゲストハウス」でいいか、と聞いたので何の問題もないと答えたのだけど、連れて行かれたところは彼個人の友達のアパートだった。まだ帰ってないから少し待ってくれ、と言う。この辺りでヤバイと気がついた。待っていた時にアパートの一階のタバコ屋のおじさんが気づかれないように小さく手招きしたので、タバコを買うフリをして行くと「あそこに泊まっては絶対にいけないよ。ホテルに行きなさい」と教えてくれた。礼を言ってタバコを一箱買い、「私はもう疲れているから待てない。ホテルに泊まるよ」と言ったら、じゃホテルまで一緒に行こう、と答えた。3軒くらい回ったのだけど全て満室だと断られてしまった。こんな田舎のホテルが満室なわけがないのにね。彼と一緒だから断られたのは明白だ。礼を言って別れて一人で隣のホテルに行ったらすんなり泊めてくれた。

翌日は反省してまだ暗い朝早くに出た。次の町には午後3時頃に着いたのだけど、やはり英語が通じないのでホテルが見つからない。バスターミナル近くのホテルは満室だと断われてしまった。じゃ地元のインド人に聞いてみようと思って英語で話しかけたのだけど、誰も答えてくれない。最初私はインド人は皆んな英語ができると思っていたのだけど、田舎では英語を使えない人も多いことを初めて知った。そこでチャイ屋で新聞を読んで暇そうにしているお爺さんに話しかけると彼は英語が使えたので、相談していると近くにいた皆んなが寄って来た。そりゃそうだよね。こんな田舎に外国人が来ることは滅多にないんだろうから興味はあるよね。ワラワラと集まって皆んなで議論を始めた。「あそこのホテルが良いんんじゃない」「お前は馬鹿か、外国人があんな安ホテルに泊まるわけないだろ」などなど。もちろんヒンディーは分からないから類推だけどね。議論の末に勧められたホテルに行ってみると、外の壁全面がガラス張りの明るくて清潔な気持ちの良いホテルだった。スタッフのホスピタリティも良い。こんな田舎にこんな良いホテルががあるのは驚きで、気持ち良かったので2泊した。近所の食いもの屋も旨い。パクチーの入ったチャパティがとりわけ旨かった。そんなわけでその町にはもっといたいと思ったのだけど、先を急がなくちゃいけない。

その後は順調に行き無事サールナート近くのヴァラナシ に着いた。

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